(写真=John Cuyos/Shutterstock.com)
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被災から支援の力で蘇った久慈市「もぐらんぴあ」

2018.12.28
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岩手県久慈市の観光地であり、地元の顔でもあった地下水族科学館「もぐらんぴあ」は、東日本大震災によって全壊しました。絶望的だった状態から、5年の年月を経て再興したもぐらんぴあ。市民をはじめ多くの人々からの要望と、クラウドファンディングの支援を受けて施設が再オープンするまでの経緯をご紹介します。

久慈市の発展を支えてきた「もぐらんぴあ」

地下水族科学館もぐらんぴあは、岩手県久慈市の海沿いにある施設です。1994年4月に国家石油備蓄基地の作業坑を活用して開館し、観光地の一つとして久慈市の発展に寄与してきました。

もぐらんぴあの展示内容は、岩手の海の多様な生き物や文化にかかわるものです。もぐらんぴあは、単なる水族科学館としてだけでなく、地域の歴史を後世に伝える役目も果たしていました。

もぐらんぴあを訪れる来場者には家族連れも多く、地元の子どもたちに新しい発見や楽しみを与える場所としても欠かせない存在でした。魚たちと共に泳いでいるような気分を味わえる水槽トンネルをはじめ、来場者が「何度でも訪れたい」と感じられる工夫を重ねました。

観光地として、地元の大切な場所として育ってきたもぐらんぴあは、オープンから東日本大震災までの約17年間でのべ130万人以上の来場者を迎え、久慈市の顔になっていたのです。

東日本大震災による被害と5年の空白

2011年3月11日の東日本大震災は、被災地の日常を一変させました。岩手県久慈市も被災地の一つです。海沿いにあったもぐらんぴあの建物は津波によって全壊し、魚たちとふれあうことのできた水槽は割れ、施設内にいたほとんどの生き物たちが失われました。

震災から1ヵ月間は施設のスタッフさえ館内に入ることができず、地下水族科学館を再びオープンすることはほぼ絶望的な状態でした。しかし、市民からはもぐらんぴあをどうにか残していけないかという声が集まります。

もぐらんぴあに一筋の希望を残したのは、奇跡的に生き残ったわずかな生き物たちでした。もぐらんぴあの中でも人気者だったウミガメの「カメ吉」もその一匹です。震災から1ヵ月間、施設内で命をつなぎ、消耗しながらも、再び人々に姿を見せてくれたのです。カメ吉が住める大きな水槽を失った久慈市は、一時青森県八戸市にカメ吉を預けることになりました。生き残ったカメ吉が再び久慈市に戻ってこられるよう、復興への挑戦が始まったのです。
2011年8月、市民の声を受け、空き店舗を利用したサテライト水族館「もぐらんぴあ まちなか水族館」をオープンしました。限られた空間でも楽しめるよう、全国で知名度があり、かつ久慈市の文化の一つである海女をコンテンツとして盛り込むなどの工夫が凝らされ、来場者からは高い評価を受けます。

国の復興財源を利用した本館のもぐらんぴあの再建も始まります。大規模な設備や水槽を修復するには5年間という長い年月を要しました。しかしその期間に、一時は衰弱していたカメ吉も預けられていた青森県の施設で徐々に体力を取り戻してゆきました。

この時、施設の基本的な設備を整えるところまでは実現したものの、来場者を迎えるための装飾や細かな演出部分を完成させるには、予算が不足していました。簡素な空間に水槽だけが戻された状態のもぐらんぴあが、完全な元の姿を取り戻すためにはあと少しの資金が必要だったのです。再び来場者を迎えるためにと久慈市長が取った決断は、クラウドファンディングを利用することでした。

クラウドファンディングが実現したもぐらんぴあの再誕

クラウドファンディングプラットフォーム「Readyfor」に投稿された、久慈市長からのもぐらんぴあ再興のための支援・協力の願いは、久慈市民だけなく、全国のユーザーたちに届けられました。SNSでは支援を呼びかける口コミが広がり、過去のもぐらんぴあの姿を知るファンからの多くのエールが寄せられました。

クラウドファンディングによる目標額の600万円の使い道は、もぐらんぴあの装飾とカメ吉の輸送費に充てられます。震災を生き残り、今も元気に生きるカメ吉がもぐらんぴあに戻ってくることと、来場者の笑顔を再び生み出していくことは、まさに復興のシンボルそのものと言えるでしょう。

多くのファンからの支援を受け、目標額を超える800万円の支援金を集めたもぐらんぴあは、2016年4月23日、再びオープンしました。震災前よりさらに多くの人を喜ばせたいと市長が願って企画したプロジェクションマッピングも上映され、海女の素潜り実演などの演出も加えました。

何より来場者が歓声を上げたのは、大きな水槽の中で元気に泳ぐカメ吉の姿でした。クラウドファンディングによって実現したもぐらんぴあの再興とカメ吉の帰還は、被災に負けず多くの人の想いを集めて前へ進む、久慈市の挑戦の結実です。

想いが集まることで実現できること

もぐらんぴあは多くの人々から愛される施設です。復興を願って少しでも支援したいと動いた人々の想いが集まったことで、困難だと思われた再建が実現しました。一つひとつの力は小さなものでも、それを集め、動かすプロジェクトや信念が軸にあることで形になる。もぐらんぴあの挑戦は、クラウドファンディングによる新しい夢の実現方法を示唆してくれています。

 
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